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歯についての豆知識

子供の矯正治療におけるインビザライン・ファーストの功罪

こんにちは,院長の黒瀬です。

今流行している小さな子供のインビザライン治療についてお話ししたいと思います。インビザラインは取り外しができて、目立ちにくくて簡単という認識の方が多いと思います。実際は大きく違いますがこれは後述します。

まずはインビザラインの功績について。

インビザラインの功績は歯列矯正治療を患者さんの身近なものにしたことに尽きると思います。どうしても矯正治療は装置が複雑で見栄えも悪くてなかなか手を出しにくかったところに透明のマウスピースだけでシンプルにできるイメージができ、治療の敷居が下がったと思います。また、きちんと使えば治るケースもあり、従来のワイヤーよりも虫歯のリスクが下がったことは朗報でしょう。

ところが罪も少なからずあります。

まず1つ目、インビザラインは取り外しができるので使わないお子さんにはもちろん効果がありません。決められた使用時間は1日20−22時間と長く、ご飯を食べているとき、歯を磨いているとき以外は全て装着しないと治療がうまく進みません。逆に考えると、食事の時に外さないといけないなど外れることが最大の欠点になりかねません。

2つ目、お子さんの場合、装置を壊してこられることが多々あり、その度に装置の再製作が必要であったり、ひどい場合は治療計画を初めから練り直す必要まで出てきます。また、お子さん任せにするとインビザラインの番号を全く手順通りにステップアップしていなかったり、上下の番号をバラバラに使って収拾がつかなくなることもありますので、親御さんが管理することもかなり重要です。

3つ目、治療開始に適している年齢のスイートスポットが非常に狭い。混合歯列期(永久歯と乳歯が混ざって生えている時期)からしか治療を行えませんので、治療途中に乳歯の脱落があると装置が嵌まらなくなり、再度口の中をスキャンして新しい装置を作り直すことが多くなります。1年6ヶ月というメーカー指定の短い期間内でしか装置を作ることができませんので、再製作が多くなると向こうとのやり取りや海外から郵送している関係上時間を大きくロスすることになります。つまり治療スタートする時期が遅すぎたり治療が長引くと治りません。

4つ目、顎の骨を広げることができません。プラスチックの柔らかい素材ですので、骨を広げるほどの力がなく、根本の骨を広げたいときにそれができません。したがって広げたい場合は顎骨を広げる装置を別に使ってからインビザラインを製作する必要があります。ただし、タイムラグがあると到着したインビザラインが嵌りませんのでかなり工夫が必要になります。そういう手間をかけるのであれば、広げてからすぐに普通にワイヤーで並べた方がはるかに早く上手く治すことができます。

5つ目、小児の歯は大人のように完全に歯茎の上に露出しているわけではないので、結局インビザラインでは掴みきれず、装置がガバガバにルーズなフィットとなり、想定通りに動かないことが多くあります。

以上のことから、当院ではインビザライン・ファーストでしか治せない少数のケース、親御さんが特に求められた場合以外は小児(混合歯列期)のインビザライン治療はあまりお勧めしておりません。

新しい治療法や装置が開発されるのは良いことですが、新しいものが最良とは限りません。患者さんごとに最良の装置の選択が必要です。